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血液脳関門

血液脳関門(BBB; blood-brain barrier)は脳毛細血管内皮細胞だけでなく、ペリサイト、アストロサイトなどの細胞により構成されており、これらの細胞間のクロストークが非常に重要です。神経細胞とBBB構成細胞は機能的なユニットを形成していることからneurovascular unitと呼ばれ、生理的、病態的意義の解明が進んでいます。さらに脳虚血時や炎症下においてはマイクログリアの関与も注目されています。これらの細胞間のクロストークの破綻は中枢神経疾患の発症と進展に密接に関係しているため、神経細胞保護に加えてBBBを制御することは中枢神経疾患治療の重要なターゲットと考えています。

我々は長崎大学薬理学教室で開発されたin vitro BBB modelを使用し、脳虚血や高血糖など日常臨床で遭遇する病態モデルを作製し、さまざまな薬剤がBBBに与える影響を検討するとともにそのメカニズムの解明を行ってきました。また、BBB研究を発展させ、転移性脳腫瘍における癌細胞の浸潤・転移のメカニズムの解明、血栓回収療法時における脳保護療法(動注療法)など新しい分野への研究にも着手しています。

長崎大学脳神経外科はBBBに関する研究を長年に渡り行っており、数多くの論文を発表しております。また、大学発ベンチャー企業であるファーマコセル社とも連携し、当科のBBB研究をサポートしていただいております。国内外の研究室とも共同研究を行っており、幅広テーマを扱っています。

これまで数多くの医局員が血液脳関門領域での研究成果を認められ、海外留学し、研究を発展させています。現在(2021年)は藤本隆史先生がワシントン大学(Professor. William A. Banks)に留学中です。これまで留学先も多岐に渡っており、海外の研究施設と共同し、複数の外部資金も獲得し、研究を進めています。我々の研究グループが中心となり、2019年より年1回、BBB minisymposium on blood-brain barrier: from basic to clinical researchと題した国際研究会を開催し、交流を行っています。

これからもBBB保護という新しい視点から、脳卒中、脳腫瘍、てんかんなど脳神経外科領域全般に貢献できる研究を展開していきます。また、脳神経外科に限らず、神経科学、血液脳関門の研究に興味がある学生、大学院生、研究者と一緒に研究、共同研究を展開できればと考えております。

主な共同研究先

  • ファーマコセル株式会社
  • 福岡大学 薬学部
  • 昭和大学 救急・災害医学講座
  • セゲド大学(ハンガリー)
  • ワシントン大学(米国)
  • スロバキア科学アカデミー(スロバキア) 他

競争的外部資金(国際共同研究分のみ記載)

灌流型3次元血液脳関門モデルを用いた中枢神経系疾患治療薬の開発
国際共同研究強化(B)(米国、ハンガリー、スロバキアとの国際共同研究)
2020‐2025年、配分総額 18,850,000 円
脳内選択的ドラッグデリバリーシステムに注目した中枢神経疾患治療薬の開発
二国間共同研究(スロバキアとの国際共同研究)
2021‐2022年、配分総額 4,000,000 円
脳梗塞治療薬の開発-灌流型3次元血液脳関門モデルによる解析-
二国間共同研究(ハンガリーとの国際共同研究)
2020‐2021年、配分総額 5,000,000 円
in vitro 血液脳関門モデルを用いたがん脳転移メカニズムの解明
二国間共同研究(ハンガリーとの国際共同研究)
2018‐2019年、配分総額 5,000,000 円
脳虚血時における血液脳関門の破綻及び修復機序の解明(国際共同研究強化)
国際共同研究加速基金(米国、ハンガリーとの国際共同研究)
2016‐2019年、配分総額 14,560,000 円

文責:諸藤 陽一

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